ラブライブ!サンシャインはなぜ面白いのか?:古典ハリウッドと13フェイズ構造

  二日間にかけて行われた東京ドーム公演も無事成功させ、紅白歌合戦、そしてラブライブシリーズ初のアジアツアーも決定し、かつてのμ’sに迫る勢いを見せているスクールアイドルグループ・Aqours。雑誌連載からゲームアプリ、そしてキャスト声優による音楽活動と、オールメディア展開で多岐に渡る活躍を見せる彼女らですが、その人気の火付け役であり全ての土台となったのはやはり、TⅤアニメの存在でしょう。

先代・μ’sの活躍を描いた前作、いわゆる「無印版」ラブライブ!は、TⅤアニメで絶大な人気を得たのちも様々な活動を重ね、ビッグ・コンテンツにまで成り上がりました。その後釜として結成されたAqours、そしてラブライブ!サンシャインは正にその「前作の成功」からの重圧を背負ってのスタートでした。そんな中始まったTⅤアニメ一期、そして続編である2期を含めた全26話にフィーチャーして今回のお話を進めていきます。

 

 

 はじめに

結論から言うと、僕はラブライブサンシャインのアニメは、とても面白いと思った。

どうしても前作と比べてしまったのもあり、一期で視聴を辞めてしまったため二期まで全て見終わったのはアニメ放送終了から三か月後でしたが、正直それまでの自分の判断を後悔するほどの魅力が詰まった作品だと思います。というわけで、今回は僕がサンシャインを面白いと思ったワケをその脚本構造から順を追って説明していきます。

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ラブライブ!は紛れもなく成長物語です。9人の少女が様々な困難を乗り越え、ラブライブで優勝するまでの軌跡の物語。ありがちなマンガの展開で言えば、弱小野球部が人数を集めて甲子園で優勝するのをイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。そう、ラブライブはアイドルアニメというよりは、どちらかというとスポ根に分類されるはずです。「努力すれば報われる」という概念が失われた現代では、「友情・努力・勝利」の典型的な王道物語は敬遠されやすいと言えます。特にアニメのような娯楽作品では、物語に明確な変化の無い日常もの、努力をせずとも優れた能力が手に入る異世界もの、無条件で女の子が主人公を好きになるハーレムものが主流の時代になりました。そんな時代相からは逆行するように「変化」と「成長」を描き切ったのがラブライブシリーズです。特にサンシャインのアニメは、全編を通していわゆる古典的ハリウッド映画におけるいくつかの約束事を守って作られた、ある意味クラシック・スタイルの物語なのです。

古典的ハリウッドに倣う脚本術

古典的ハリウッド映画は、20世紀初頭から半ばにかけて形成された、最も標準的な物語作品の形式です。そのような「基本」の映画には、下記のようないくつかの約束事が存在します。

・物語の軸は「登場人物の心理」。原則、中心的登場人物は立体的(複雑で多元的、予測不可能な行動を見せる)であり、脇役、端役は平面的(わずかな特性しか付与されず、行動が予測しやすい)な人物である。

・主人公は自身の決断がその後の結果へと結びつく因果律の担い手。非個人的な原因や偶然が物語を進めることは稀。 

・【対立】【葛藤】【変化】による三幕構成。

①到達すべき目標、回復すべき欠損が示される 

②それらの目標に向けた行動の中で、試練を受ける過程

③目標が達成される

 

中でもこの三幕構成は、物語に起承転結をもたらし、主人公が葛藤と出会い成長していく過程を視聴者に納得させるための大切な要素です。そして今回はそれを更に細分化した、脚本家の沼田やすひろ氏による「13フェイズ構造」を紹介していきます。

Amazon.co.jp: 沼田やすひろ:作品一覧、著者略歴

 

13フェイズ構造とは?

【第一幕】対立

  1.日常

  2.事件

  3.決意

【第二幕】葛藤

   4.苦境

   5.助け

   6.成長・工夫

   7.転換

   8.試練

   9.破滅

  10.契機

【第三幕】変化 

  11.対決

  12.排除

  13.満足

上記が基本的なプロットに必要な13フェイズとなります。では、今度はラブライブサンシャインを例に取って一つずつ詳しく説明していきます。

第1フェイズ【日常】

作品の冒頭であり、主人公の日常生活です。この中で主人公の抱えている「問題」が描かれます。この問題の解決こそが、作品のテーマとなります。

サンシャインの主人公、千歌の抱える問題は「自分が普通である」こと、それ故に「輝きたい」という願望・目標がここでは示されます。

第2フェイズ【事件】

 何らかの出会いや、異変が起きることによって主人公がそれまでの日常から引き離されます。

サンシャインでは、一話のアキバでのスクールアイドルとの出会い、あるいは作曲のできる少女・梨子の転校(アイドル活動が本格スタートする要因)がこれに当たります。

第3フェイズ【決意】

 主人公は第2フェイズで対面した特異な世界や状況に飛び込む決意をします。ここでは主人公の確固たる決意を描く必要があります。

サンシャインでは、3話で講堂を満員にした千歌がダイヤに対して「決意」を表明するシーンがあります。それにしてもこの時のダイヤのセリフ、

これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ。

勘違いしないように! 

これ、めちゃくちゃメタ的で好き。μ’sの成功が無ければAqoursの成功も当然なかったわけですから。観客が0から始まったμ’sとの対比もまた面白いです。

第4フェイズ【苦境】

「決意」をした主人公が行動を始めます。そしてここからが主人公が「葛藤」を通して変化していく第二幕に入ります。ここで「苦しみ」があると、主人公の「変化」には効果的です。

サンシャインでは、6話で浦の星の廃校の知らせが舞い込みます。その受け取り方は様々でしたが、「廃校を阻止する」という新たな目標に向けてメンバーは走り出します。

第5フェイズ【助け】

苦境に陥った主人公へ助けが現れます。それはキャラクターであったり、小道具であったり形は様々です。この助けによって、第6フェイズで主人公が成長を遂げたり、苦境を乗り越えるための工夫が生まれます。

サンシャインでは、同じく6話で学校の良さを伝えるPVを作る際、内浦の人々の協力を得て「夢で夜空を照らしたい」の楽曲PVを完成させます。

第6フェイズ【成長・工夫】

ここでは、主人公が苦境を脱するための成長・工夫をする姿が描かれます。

サンシャインでは、7話でPVの再生回数が5万回を超え、東京のイベントにAqoursが招待されます。ここで「このまま行けばラブライブに出れるかも!」と期待するシーンこそ、この先の転換への大きなフラグとなります。

第7フェイズ【転換】

 このフェイズで物語は、破滅へと転換していきます。多くの作品では、第6フェイズでの成長を祝って喜ぶ姿が、今後の展開と対比させるように描かれます。直後に待ち構える絶望との落差が大きければ大きいほど、面白い展開になってきます。

サンシャインでは、東京のイベントで今まで一番のパフォーマンスをしたにも関わらず、周りのグループに圧倒され、8話でAqoursは投票数0の最下位となりました。このときの悔しさこそが「0を1にする」という新たな決意を生み、千歌たちは更なる一歩を踏み出します。

第8フェイズ【試練】

ここから主人公の本当の成長が始まります。今度は主人公が助けなしで試練へと向かっていきます。そこでもがき、苦悩し、葛藤する主人公の姿が視聴者に主人公の変化を感じさせます。

サンシャインでは、2期3話の大雨による学校説明会延期、6話のミラクルウェーブ完成のための大技挑戦など、いくつかの試練が用意されています。この【転換】から【破滅】までの間では、13フェイズの重ねがけによる二重構造となっていますが、重ねがけについてはのちに説明します。

 第9フェイズ【破滅】

 主人公の試練は、とうとう自分の力の及ばない破滅を迎えます。ここを乗り越えることによってはじめて主人公はその成長を認められるのです。この落差が大きければ大きいほど、面白いドラマとなっていきます。

サンシャインでは、二期7話の廃校決定こそが正にこれに当たるでしょう。一時Aqoursラブライブ出場辞退かという所まで追い詰められます。学校こそが「輝く」ための場所だと考えていた千歌にとって、再起不可能とも言えるショッキングな出来事でした。

第10フェイズ【契機】

破滅の中から、主人公は「変化」のためのきっかけをつかみます。この契機の状況の中で、主人公は究極の選択をするのです。この選択が、のちの展開を左右する因果律となります。

サンシャインでは、8話での廃校決定を経て「学校を救う」という大きな目標を失ったAqoursが、「ラブライブで優勝して学校の名を刻む」という新たな目標へと進む決断をします。その瞬間に、白い羽根(μ’sの輝きの象徴)が青い羽根(Aqoursの輝きの象徴)へと姿を変えることからも、ここが今後の展開への大事な契機となるシーンであるとわかります。そしてこれを提案したのがなんとモブキャラである同級生たちというのが、ラブライブが「みんなで叶える物語」などという所以なのかもしれません。

第11フェイズ【対決】

いよいよ「変化」を遂げた主人公が敵との対決を迎えます。あるいは、自分の内面との対峙の場合もあります。敵が強ければ強いほど、面白くなってきます。

サンシャインでは、ラブライブの決勝に向かっていく2期の12話でしょう。メンバー一人一人に「ラブライブ、勝ちたい?」と聞く千歌、そしてそれぞれ一人になって自分を再び見つめ直す決勝前のあのシーンが堪らなく好き。 今まで背負ってきた「学校のために勝ちたい」という一種の重荷が解かれ、それぞれが「自分(Aqours)のために勝ちたい」と心から思えているのが、μ’s(の伝説)からの決別を表したいいシーンだと思います。一期12話で部屋のポスターを剥がしてもなお、無意識に追っていた白い羽根は、もう鮮やかな青へと変わったのです。

第12フェイズ【排除】

主人公は、困難の中で敵を排除しなければなりません。主人公が成長してきた過程の全ての工夫を使って勝利します。

サンシャインでは、ラブライブ優勝がそれに当たります。しかし、決勝ではAqours以外のグループ(敵)が描かれることはありませんでした。それは正しく、作品のテーマが主人公である千歌自身の問題にあり、敵は最初から千歌の内面にあったからでしょう。ラブライブで優勝することによってAqoursは初めて、ずっと背負ってきた「学校」という重圧から離れられたと言えます。もっとも、千歌がアイドルを始めたきっかけはμ’sのように廃校阻止ではなく、「輝きたい」という根源的な願いであったのに、マクガフィン(置き換え可能な物語の動機付け)であるはずの廃校問題に最後まで縛られたのが、一期で廃校を阻止したμ’sとの対比を思い起こさせます。そもそも「廃校阻止」がテーマであり目標であったμ’sが、一期のよりにもよって「破滅」の段階で廃校阻止が決まったところも、何とも言い難いアイロニーを感じさせます。「ラブライブ優勝」と「廃校阻止」には実は直接的な因果関係は無いのに、時を経て語り継がれたその伝説を盲信して「優勝して学校を救う」ことを目指したAqoursの姿こそ、ミスリードの誘因だったのかもしれません。

第13フェイズ【満足】

主人公は、第12フェイズの排除のより最大の喜びへと到達します。ここで解決すべき問題はすべて解決される必要があります。

サンシャインでは、千歌はラブライブで優勝したものの決勝の舞台で見つけたはずの輝きの正体に気づけません。なぜなら、自分の輝くための場所、守るべき「学校」はもう無いからです。しかし海岸でのシーンで千歌は、飛ばしては何度も落ちてしまう紙飛行機を諦めずに飛ばします。この紙飛行機こそが、千歌の「諦めない心」のメタファーとなります。小さい頃から、何でも諦めたフリをして、何にも夢中になれなかった千歌がやっと見つけた輝きへと、風に乗った紙飛行機が彼女を導きます。そこは奇しくも、これから失くなってしまう学校でした。そこでサプライズのように邂逅したAqoursのメンバーと共に再び歌うことにより、千歌は自身が探し続けた輝きの答えへと辿り着くのです。

私が探していた輝き、私たちの輝き。

あがいてあがいてあがきまくって、やっとわかった。

最初からあったんだ。

初めて見たあの時から、何もかも、一歩一歩。

私たちの過ごした時間の全てが、それが輝きだったんだ!

探していた私たちの、輝きだったんだ!

 こうして千歌は答えへと辿り着き、第1フェイズで提示された問題が解決し物語は大団円を迎えました。このように、ラブライブサンシャインは脚本の基盤となる13フェイズ構造がきちんと成立しているのです。では、今度は13フェイズの「重ねがけ」について説明していきます。

 

物語に深みを与える!「重ねがけ」の技法

重ねがけとは、13フェイズ構造の中でさらに13フェイズ構造を重ね掛け合わせてドラマをさらに奥深くする技法です。主人公がより多くの試練や選択を重ねることにより視聴者にその成長を納得させる効果があり、強調したいフェイズ間に組み込まれ、物語の密度が高まります。

サンシャインでもこの重ねがけは導入されています。では、先程の第8フェイズ【試練】の部分から、さらに細かく見ていきましょう。

前項では省略しましたが、7話の東京でのイベント、三年生組の加入でAqoursは【転換】期へと突入したのち、8人でのラブライブ予備予選という【試練】を迎えます。ここでは主人公の千歌だけでなく、サブストーリーに当たる梨子や曜などの内面にあった問題もバランスよく解決していきます。そして万感の思いで迎えた地区予選ですが、一期はその結果が明かされることなく幕を閉じます。これこそが、サンシャインの一期の評判がいまひとつだった理由ではないでしょうか。「0から1へ」という目標が達成される描写こそあったものの、迎えた対決に対しての答えとなる「勝利」という結果が描かれなかったため、物語は不完全燃焼で終わったことになります。もっとも二期の制作が前提としてある分仕方はないのですが…。

 そして迎えた2期1話の冒頭で、地区予選でAqoursが敗退していたことがしれっと明かされます。決勝進出こそ逃しましたが既に次のラブライブの開催も決まっており、破滅というほどのインパクトは無かったものの、ここから更に事件や試練という二重構造が始まり、物語は成功や成長を重ねながら徐々に破滅へと向かっていきます。1話最初の、千歌が輝きへと手を伸ばし、地面が砕けて奈落へと落ちていく夢を見てベッドから落ちる一見コミカルなそのシーンが、その後の展開を暗示していたのかもしれません。 

第2フェイズ【事件】

2期で起こる最初の事件は「学校説明会の中止」、つまりは廃校の決定です。1話から非常に重い展開で始まるのがなんとも面白いです。また、「事件」でありながら自身の力が及ばない敗北を意味する「破滅」や、更なる目標設定のための「契機」であるとも言えます。ともかく一話ラストでの新たな【決意】へ向かうための布石となるフェイズです。

第3フェイズ【決意】

新章である2期1話のラストで、葛藤の末、千歌は「諦めない」で「最後まであがく」という決意をします。千歌だけでなく他のメンバーも同じ想いでグラウンドに集まったことが、Aqoursという人格、そして「奇跡」を起こす手がかりを示唆してくれています。軽はずみな気持ちで始まった1期から、今度は本当の意味で学校の命運を背負ってAqoursは舵を切るのです。

第4フェイズ【苦境】

新たな決意のもと、千歌とAqoursは更なる苦境の中で成長していきます。学校説明会とラブライブ予備予選に向けて同時に2つの曲作りに励むも、歌詞がなかなか思い浮かばず息詰まる千歌、違いが浮き彫りになり音楽性がまるで合わない一年生と三年生。しかし試行錯誤の末曲は完成し、9人の絆は更に深まります。そこにはAqoursの確かな「成長」が感じられます。

第5フェイズ【助け】

自力で入学希望者を増やすと宣言したため、パパからの「助け」は絶対に使えないとした鞠莉。そのためAqoursは、2期では大きな助けを得ないで試練を超えていかなければなりません。学校説明会が延期されたことにより、予備予選と重なってしまう非常事態。一度は二手に分かれてのライブを画策するも、結局Aqoursは9人で予選に出場した後に走って会場から学校まで行って説明会に間に合わせるという選択をします。余談ですが、サンシャインは物語の舞台である沼津や内浦を正確に再現しているため、学校への交通の便の悪さまでもを体験することにより、リアリティが増してより物語を楽しむことができるという効果が聖地巡礼にはあるので、一度舞台を探訪してみることをおすすめします。

このシーンの中では近道をするためのみかん畑であったり、Aqoursが乗り込んだみかんを収穫する機械のような小道具が「助け」に当たります。助けを得たAqoursは2つのライブを無事成功させ、更なる成長を遂げていきます。

第6フェイズ【成長・工夫】

予備予選を通過し地区予選決勝へと駒を進めたAqours。地区予選では会場とネットによる投票で勝敗が決まるため、生徒数が少ないというハンデを抱えるAqoursは会場を味方にするほどの圧倒的なパフォーマンスが求められます。そこで、地区予選を勝ち抜くためかつて三年生が挫折したフォーメーション、Aqoursウェーブへと挑みます。センターの千歌にはサビ前のロンダート&バク転という大技が課せられます。自分が無理をさせたせいで再び誰かが傷つくことを懸念する果南の制止を振り切り、千歌は大技の完成を目指します。

第7フェイズ【転換】 

何度も挑戦するも、失敗を重ねる千歌。果南と約束した期限の夜、砂浜で曜や梨子、みんなから応援されながらも結果は失敗。「出来るパターンだろこれー!!」と嘆き、落ち込む千歌に曜と梨子が諭します。

千歌ちゃん、今こうしていられるのは誰のおかげ?

それは…学校のみんなでしょ、町の人たちに、曜ちゃん、梨子ちゃん、それに…。

一番大切な人を忘れてませんか?

今のAqoursがあるのは誰のおかげ?最初に始めようって言ったのは誰?

(中略)

他の誰でもAqoursは作れなかった。千歌ちゃんがいたから、今があるんだよ。そのことは忘れないで。

自分のことを普通だって思ってる人が諦めずに挑み続ける。それが出来るってすごいことよ!

そんな千歌ちゃんだからみんな頑張ろうって思える。Aqoursをやってみようって思えたんだよ!

だから恩返しなんて思わないで。みんなワクワクしてるんだよ!千歌ちゃんと一緒に、自分たちだけの輝きを見つけるのを!

 詰まるところ、「出来るパターン」を作り上げたはずのの千歌に足りなかったのは、支えてくれた周りの人への恩返しという気持ちが先行するあまり見失っていた、自分自身の持つ力を信じる気持ち、「自信」でした。応援や期待、そして自信を手にした千歌は無事本番も成功させ、Aqoursは本当の意味で完成を迎えました。こうして地区予選突破、ラブライブ本戦出場を果たしたAqours。しかし、ここでAqoursは再び試練を迎えることとなるのです。

第8フェイズ【試練】

ラブライブ出場も決まり、鞠莉の父親との約束の日を迎えたAqours。しかし、伸び続ける再生回数とは裏腹に入学希望者の数はほとんど変わりません。やれることは全てやったAqoursの9人が出来ることは、ただ待つことだけでした。

2期では「入学希望者100人」という明確なノルマが期限付きで課されますが、このように時間的な期限を設けることでスリルを高めるデッド・ラインの手法はラブライブにおいて実によく見られます。デッド・ラインは古典的ハリウッド映画の実に4分の3が含んでいると言われています。

こうして重ねがけを経て物語は廃校決定という【破滅】、【契機】ののち最終決戦へと向かっていくのです。

 

高海千歌」「高坂穂乃果」の主人公像  

 

前項で、古典的ハリウッド映画の基盤となるのは主人公の「成長」であるとしました。成長と一重に行っても、そこには冒頭で示された「問題」を苦難の中で最終的に解決することに意味があります。その過程がサンシャインの物語は非常にわかりやすかったのです。主人公高海千歌は予測不可能な行動を見せる無鉄砲さを持つ一方、内に抱えるものは複雑であるという実に立体的な人物でした。対して、μ’sの高坂穂乃果という主人公は、天真爛漫で裏表の無い人物であり、「学校を救う」という目標のために一直線で走り抜けました。しかし無印版ラブライブでは、一話で示された目標は一期、それも「破滅」を迎える前(というか最中)の段階で達成されてしまったのです。これはなんとも皮肉ですね。「学校を救う」ことで「輝き」を手に入れられると信じ込んでいた千歌にとっては尚更です。そして二期では「ラブライブで優勝する」という新たな目標が設定されたため、無印版の一期と二期は物語として一続きでない別物と考えて良いでしょう。二期では、大きな挫折や失敗はなくどちらかというと順調な道のりが描かれ、メンバーの個々の問題を掘り下げるサブストーリーの比重が大きかったのも特徴です。それ故に「一期のほうが青春群像劇って感じがして面白かった」「2期はファンを楽しませるためのキャラクターアニメだ」などという意見もよく耳にします。そのほうが好き、という人もいるのでその辺は本当に好みによると思います。無印版ラブライブは、特に2期において純粋に成長物語と呼ぶには少し弱い部分があったのかもしれません。思い返せばμ’sの「敗け」は講堂でのファーストライブの観客0や体調不良によるラブライブ出場辞退などのグループ内での出来事のみであり、AーRISEにもポテンシャルを評価されるほどの実力が備わっているイメージがあります。野球漫画で例えるなら「ドカベン」です。対してAqoursは、μ’sに憧れて始まったこともあり、廃校問題など最後まで悩まされながら泥臭くもがいていたイメージです。野球漫画で例えるなら「キャプテン」です(なぜ野球漫画でたとえるのか)。このことで、より大きい困難・葛藤が組み込まれたほうがより主人公の成長を視聴者に納得させることが出来るという物語の基本構造を実感できます。 

ラブライブメタフィクション

 ラブライブには、現実と虚構が交差して物語が進んでいくという性質があります。そう、ここで言う「物語」とはアニメ本編に限らず、キャストやスタッフ、そしてファンの歩んできた道のり、ラブライブというコンテンツ自体を含む全てに当てはまります。そもそも「みんなで叶える物語」というテーマを初期から掲げ続けているラブライブは、ファンがAKB48のように楽曲のセンターを決めるための投票を行ったり、ユニットやグループ名を募集したりと虚像であるキャラクターがあたかも現実にいるかのように思い込む、そんなファン参加型の雑誌企画から始まりました。そして次第にその声優を務めるキャストによるアニメ映像とシンクロしたライブを初めとした様々な活動が開始され、「現実」をより「虚構」へと近づけるという動きが高まっていったのです。まったくの無名、ファンも少ない状態で始まった小さなコンテンツがアニメ化やゲームアプリの流行を経て、劇場版の大ヒットや紅白出場や東京ドーム公演を成し遂げるまでに人気を集め、そして惜しまれながら終わりを迎え、次の世代へと託されるー。そのような「現実」で起こった一種のドラマとも言える過程の殆どが、アニメという「虚構」を通して、その物語がメタ的に再現されているのがもう最高に、エモいです(語彙力の限界)。

特に印象的なのが劇場版です。海外でライブをやることになり「ずいぶん遠くまで来ちゃったね」と心境を吐露する花陽や、帰って来るやいなや自分たちも手に負えないほど大勢のファンに囲まれ「これは夢やドッキリなんじゃないか」と疑う穂乃果、そしてあまりの人気が災いし、今後のスクールアイドルの発展のために「μ’sは解散する」という決断の撤回を求められる9人。まさに二期終了後からファンが急増し、紅白出場など社会現象にまで膨れ上がったコンテンツ、関わってきた全ての人に起こった出来事の全てが、アニメーションにフィードバックされたのです。そして最終的に「μ’sを続けるかどうか」、その問題への結論を出したのはアニメの中の9人だったのです。それに倣うようにキャストによるμ’sとしての活動も終わりを迎えたのです。虚構を現実に、現実を虚構に、そして最後は虚構を再び現実に…。いかにアニメが虚構と言えども、二つの世界はラブライブという物語の中に混在しているのです。

そして本題のサンシャインでは、「μ’sに憧れる少女たち」が描かれます。そこでは先代の築いてきたものの恩恵を実感する1期3話の講堂ライブ、「μ’sの背中を追うのではなく自分たちの輝きを見つける」ことを決断する1期12話など、メタ要素は引き続き色濃く反映されています。「キセキヒカル」のようなAqoursのメンバーだけでなくキャストの9人の歩んできた道を想起させる楽曲や「Thank you, FRIENDS!!」のように「Aqoursからラブライバー」へ、あるいは「キャストからキャラクター」へ送る内容の楽曲が制作されたり、楽曲を通しても様々な表現が為されているのも、メタ作品として本作を楽しめるポイントです。

❝虚構❞を超えて~4th東京ドームライブでの「想いよひとつになれ」~

さて、そんな中でもかなり特殊なタイプの楽曲となった想いよひとつになれに焦点を絞ってお話していきたいと思います。もともとアニメでは東京でピアノのコンクールに出場した梨子を除く8人で披露された楽曲です。1stライブではその再現として、キャストである逢田梨香子さんが実際にピアノに挑戦。二日目では一度失敗してしまい、曲が止まってしまうハプニングがあったもののメンバーの励ましやファンの声援の中で成功させた二度目の演奏はAqoursのライブ活動きっての名シーンです。アニメ通りには行かなかったものの、梨子ちゃんがピアノを弾くという演出は、あくまで「現実」側がアニメという「虚構」に寄せるための演出だったのです。

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 しかしその1st以来の披露となった4thライブでは、予想の斜め上を行く出来事が起こりました。なんと、梨子ちゃんを含む9人での「想いよひとつになれ」が披露されたのです。これは、アニメ本編でやろうとしてどうしても「できなかったこと」です。それをキャストによるライブで「本来の形」である想いよひとつになれをやること、これには筆舌に尽くしがたいエモさがあるのです。「現実」による「虚構」の再現を基盤にしていたキャストのライブ活動に、初めて「現実」が「虚構」という枠組みを超えて新たな物語を紡いだ、ラブライブ史に残る歴史的瞬間を迎えたというわけです。東京ドーム公演は正に集大成というべき素晴らしいライブでした。ありがとうAqours!!!!!!

 

最後に~劇場版に向けて~

最後に、ついに公開が目前に迫った『ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow』に向けて想うことを書き綴ってこの記事を終わりたいと思います。μ’sの劇場版を思い返すと、やはり最大の核となった部分は、「μ’sを続けるのかどうか」でした。三年生の卒業という同じ状況に置かれているAqoursもまた、同じ議論を迎えることは間違いないはずです。しかし予告では「三年生が卒業してもAqoursを続ける」と早々に宣言されていたり、「どんな形であってもAqoursは続いていく」というキャストの意味深な発言があったり、正直どう展開していくのか、最終的に9人がどんな答えを出すのか、全く予想できないし、楽しみで仕方がない。たとえそれがどんな結末に向かおうと、9人が納得して出した答えならファンにとってこれ以上の幸せは無いでしょう。終わりは新たな始まり、その言葉の本当の意味をついに知ることになるー。本当に楽しみで仕方が無いです。2019年1月4日がAqours、そしてラブライブに関わった全ての人にとって最高の日になりますように。